川崎で水商売を続けながら自傷行為を繰り返した20代女性

夕方にはまだ少し時間がある午後5時半に来談したのはまだ20代半ば、しっかりお化粧をした女性。

川崎の繁華街で水商売をしている彼女はあきらかに疲れた顔をしていた。お化粧でわかりづらかったがときおり思いだすように話をする彼女の顔は喜怒哀楽を表現出来ない状態になっていると感じた。

接客業を長いこと行っている人にあるのだが、めまぐるしく変わる顔の表情と発する言葉に違和感を感じるようなことがある。今回の女性にもそれを感じた。

彼女は高校まではなんとか卒業したが母親が早い段階から育児放棄をしており彼女が中学を卒業するころには2日に1度ほどしか家に帰らなかった。お酒が好きで飲み仲間から誘われるとそこで知り合った人と梯子酒をして朝方まで飲み歩くのだそうだ。

朝になっても飲みなりたい時はファミリーレストランでビールやワインを飲むらしく、彼女が学校に行った後、家に帰ってくることも多かったようだ。父親は早い段階で離婚しており現在は、蒲田に住んでいるらしいのだが会うこともないと語っていた。

気になったのは自傷痕があったことだ。

これまでにも自傷を繰り返す子をみてきたがアルコール依存していることが多かったので今回もまずそれを疑った。

カウンセリングでは自傷痕には触れず、彼女が話したことをまとめるようにした。初回で彼女が語ったのは夢に向かいたいのにお金の問題や環境がどんどん夢から離れること。自分はどうすればよいかということだった。

高校を卒業してすぐに水商売の道に入ったのはお金が稼ぎたかったのが理由だった。しかし夜の付き合いが長くなるにつれ人間関係でお酒の席が増えてしまいお金が貯まらず、やりたかった音楽のレッスンも満足に受けられなくなっていた。

歌が好きで時には自分で詩も書いていた。

プロデューサーが主催する私塾にも通っていた。

しかし、その私塾でいいのか?このままで夢は形になるのだろうか?といった漠然とした不安は常に付きまとっている。
それを考えるとお酒が欲しくなり、お酒を飲むと一時的に気分が晴れるのでそのことを考えなくてすむと話していた。

しかしお店がおわり家に帰るとまた今のままでよいのか?という考えが浮かび死にたくなる。そんなときに自傷行為をしていた。

自傷時に自分の血液を触ると温かいので自分の存在を確認したような気がしていた。

うつ病で心療内科にも通ったが処方される薬が効いているのか分からないがお金がもったいないから最近は通うのを辞めたと言っていた。

うつ病で処方される薬は眠くなるものが多く、お酒との相性も悪いのでアルコールが抜けない状態で飲むよりは良いが根本的な解決にならない。

そこで、自傷行為をしてしまう原因が何かを探るようなカウンセリング構成にした。すると、彼女が本質的に悩んでいることがお金と喪失感であることがわかってきた。

自傷行為の原因はお金と喪失感

カウンセリングを重ねるうちに携帯電話の料金支払い日の前やレッスン料金の請求書が届くと死にたくなる気持ちが強くなることがわかった。わかる範囲でよいので家計簿をつけてみたらどうだろうか?と提案した。

お酒を飲むと気が大きくなり、あるだけお金を使ってしまいあとで後悔することが多かった。管理することを目的としたのではなく感情的になった時に使ったお金をあとで確認できるようにすることが大切だった。

来談時に家計簿を見ながらどんな気もちだったのかなどを話すうちに少しずつではあるが感情にまかせたお金の使い方に時勢が出たように見えた。

お金の問題はカウンセリングの中でもとりわけ難しい。一筋縄ではいかないがお金を向き合う状況を作れた。

お金と夢で自傷行為

そこで次の問題である喪失感についてのカウンセリングを開始した。

喪失感の根幹に夢が現実的に叶いそうもないことを本人が心の中で理解していることではないかと思えた。
歌手になりたいという夢は小さいころからの夢ではなく、消去法としてこれからも自分はずっとこの仕事を続けていけるのか?といった不安から出来た夢だったのかもしれないと話したからだ。

歌うことは好きだがそれで生活したい訳ではなく、今の仕事と比較すれば歌手のほうが安定するかもしれないと思ったからだと。しかしそんなことが現実になる訳もないし、毎月レッスンの請求書が届くと本当にこれでいいのか?と思っていたと話す。

しかし辞めてしまったらいままで支払ってきたお金がもったいない、次にやることも見つからない。このままでは自分はいままで何のために生きてきたのかわからない。その漠然とした不安が自傷行為になっていた。

カウンセリングで難しかったのは本人がそのことをうすうすながらも理解していたことだ。

冷静な時はそれを受け止めることが出来ないので考えないように心にフタをしていた。お酒を飲んで気分が高揚している時は、これいいんだ!と気分が大きくなるのだが家に帰ってくると喪失感が襲ってくる、そんなときに自傷行為をしてしまう。

そのことを話している時の顔がなにか悟ったような諦めたようだったのが印象深かった。

仕事上でしりあったお客さんとの付き合いが多かったようなので同年代の友達と連絡をとってみてはとアドバイスした。そういう友達もいないということだったので心配していたが職場の同僚で仲良くなった子ができていろいろと相談できるようになったと話す。

これが結果的に転機となった。

新しい職場と目標

あるカウンセリングで彼女がうれしそうに新しい職場ではたらくことになったと話す。細かいことは書かないが子供と接する仕事で初めてのお昼仕事だった。緊張してはいるが覚えなければならないことがたくさんあると楽しそうに話をしていた。

職場が代わってから3ヵ月が経過するあたりから変化がでてきた。

それまで思い返すように自分の行動について話をしてたのだが登場人物が自分ではなく職場の人や子供たちになってきていた。大変だけど楽しいと繰り返すようになった。

それからだんだんとカウンセリングの回数が減ってきた。

最後に来たとき彼女が言った。

「資格を取りたいからあまり来れなくなると思う。でもいまはやりたいことがあります。家計簿はいまでもつけてます。」

若さゆえの勢いは良い方向にはたらくと強い力を発揮する。これで良いと思った。

疲れたらひと休みする自分を少しだけ残しておきなさい、それでも疲れたと思ったら連絡してくださいと伝えた。
大変だとは思うが無事に資格が取れることを内心で祈りつつカウンセリングを終了した。

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