年配のキャリアウーマンに認知症の気配がでた
キャリアウーマンで70歳まで張り切って働いていた。
甥を我が子のようにかわいがっていた。
甥は、結婚後実家を出て離れて過ごしていた。
徐々に認知症が進行していたが誰も訪れる人もなく昼夜逆転のまま生活していた。
退職後 うつ傾向が出てきていたが気が付かずそのままで生活しているうちに色々あやしい行動が目立ってきて近所からも苦情が出るようになった。
妄想も出てきたので、大きな石に変な字が書いてあるとか、前を人がぞろぞろ通っていると警察に通報したりするようになった。
警察も最初は駆けつけていたが、2回くらい同じ電話すると認知症と判断して相手にしなくなった。
一人では食事も自分から作ったり、食べたりしない。
お風呂も男の人が入ってるから入れないと言い入浴しようとしなくなった。
夜はふとんを敷いて寝る事もなくコタツの中に潜って寝ていた。
着替えは全然しないで夏の服を冬も来ている状態になり、介護保険サービスを受けさせようとしたが手続にかなりの困難があった。
区役所の職員が訪問しても家に居れないので、介護保険認定申請もできない状態であった。
そんなとき、甥が重大さを知り動き出した。
しかし、彼女は甥の話も聞かないし、区役所の職員も家にも入れないで大騒ぎとなってしまう。
雨戸は昼間も締め切っている。
家の中で独り言を言い続けている。
区役所は独居老人ではあるはずなのに、近くに甥がいるのであまり深くかかわらなかった。
彼女は以前から用心深く他人を信じないところがある。
甥は勤務内容が不規則でもあるし叔母に時間を取られることにあまり協力的ではなかった。
甥は友人からカウンセラーの事を聞いたが叔母が外出は出来ないので、訪問カウンセリングを希望した。
認知症の彼女へ訪問カウンセリングを開始
この時から訪問カウンセリングで、ご自宅への訪問が開始された。
気の難しい方と聞いていたのでどうなるかなと思っていたが、相性が良かったのかすぐ気に入ってもらい、心を開いて家の中に入れてもらいお話しすることが出来た。
区役所の職員も何度訪問しても断られていたので驚いていた。
いつも雨戸を閉めており、訪問カウンセリングの間だけ解放し私が帰るとすぐに閉めてしまう。
カウンセリング時は彼女が過去の話を時間いっぱいまでしている。
誰かと話したかったらしい。
昔の美空ひばりが大好きだったとか長谷川和夫が良かったと整然と話すことから記憶はしっかりしていた。
若いころはキャリアウーマンとして働いていたのでしっかり受け答えもしているし、他人の性格や考えを見抜くこともできていることに驚いた。
反面、自信のないことにはとんと疎く男の人を家に入れないので家電が壊れたり鍵が壊れたりすると大騒ぎになる。
カウンセリング時に冬でも夏服を着用しているので寒いからセーターを着るように言っても聞こうともしない。
そのため一年中エアコンをつけている。
自分では操作が出来ないので適温にして一年中稼働していた。
介護保険サービスは受けてもらいたいので雑談の合間に話すと理解できる時があるので、付き添いをするからとなだめ、役所の方に来てもらい手続きをすることができた。
医師は男性が多く拒否反応が出るので、訪問カウンセリングの一環として訪問時に時間を合わせて付き添った。
やっとの思いで介護保険サービスを受ける事になったがヘルパーさんを受け入れず、お掃除さえもさせずじっと座らせていた。
半年くらいこの状態がつづいた。・
私の訪問の時は上機嫌で動き回ってヘルパーさんが作った食事を食べていた。
冷蔵庫のものはみんな食べてしまうのでしまっておけない。とヘルパーさんは言う。
毎日ヘルパーさんに来てもらい朝食・夕食を作ってもらい食べられるようになった。
その頃から介護保険サービスのスタッフを受け入れるようになってきた。
その間もカウンセリングは続いていた。
話は大好きで物語のような事を休みなく話している。
しかし、妄想が日増しに深刻な状態になってきていた。
「あそこに小さい子供がいるから静かにして」
とか
「天井に猿がいるから見てきて」
と言うことがあり、ヘルパーさんも困ぱいしていた。
カウンセリングで掘り下げてみたところ、ご本人も何が本物なのかわからない状態になっていることがわかった。
そこで甥に心療内科か精神科を受診させてくださいと進めたが、自分の父親が精神科に入院したら悪くなった経緯があるので医療的な治療はさせないと断ってきた。
本人は私の訪問を楽しみにしてた。
ここまでの症状になってしまうとカウンセリングだけで精神面は治すことは難しいが、楽しく話している姿を見ると今までどんなに孤独だったのかなと思わず感情が入ってしまう。
甥の職業は音楽関係のようで昼と夜が逆になっており日中、連絡がつきづらい。
甥が結婚したことは喜んでいたが、お嫁さんを受け入れられない様子で一緒に訪問されると、落ち着かなくなると言う。
あんなにおしゃべりしていたのに黙って体を固くしていた。
一番の近親者に精神科の受診を拒否され、独居を強いるのは本人も辛いのではないかと思った。
電話で詐欺のような電話がかかってきたり頼まないのに品物が届いたり、何の宗教かわからない方が来たりと困る事が多くなっていた。
電話で怖い思いをすると電話を取りたがらなくなるので連絡ができなくなる。
幸いなことに認知症が進行しても信じられる人を見分ける力は残っていた。
毎日ヘルパーさんが入っているので少し安心していたがある時、腹痛が起きて緊急入院となった。
腸閉塞で手術して助かったが入院中も少し良くなると騒ぎ出し抜糸の前に強制退院になってしまったと聞く。
自宅に戻っても独居なので不安があるが何とか抜糸まで無事にいられた。
これでは独居生活は困難なので、甥とも話して認知症の病院に入院してもらうよう話をした。
病院にお見舞いに行くとお風呂も入り見違えるほどのきれいな老女になっていた。
私の事も覚えていて、入院患者に私の手を取って、
{ この人にはうんと世話になったんだからみんなお礼を言ってください。}と言っている。
お薬があっているのか、ほとんど正常に思える。
こんなに静かに過ごせるのならもっと早く入院させたかったと複雑な気持ちだった。
彼女の入院を機に訪問カウンセリングは終了した。
彼女との出会いは私も大変に勉強させてもらった。
カウンセリングをしていく中で色々の事を教えてもらった。
何より笑う事もしなかったのに話を聞き始めてから表情が明るくなりニコニコ笑うようになった。
その後、入院生活になってはいるがスタッフや患者さんの中で人の温もりを感じることができるようになればリラックスして過ごせる。
そうなればきっと彼女も幸せを実感することだろう。
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