お互いの生活がある中で葛藤に悩む長女のカウンセリング
二人姉妹でお互いに結婚してすでに故郷を離れていた。
母は田舎で独居生活をしていたが認知症状が少しずつ進行していた。
長女も次女も就労しているので、田舎には年に数回しか帰省していない。
田舎の親戚は、
「娘たちは何をしているか!母親が認知症になってきているのに!」
とガンガン言いだした。
母親の介護は長女が仕事をやめてでも看るべきだと親戚からは言われている。
長女は今の仕事で資格も取り指導者格になっているので、退職は現実的ではなかった。
母親は田舎で一人暮らしをしていて認知症も進行している、近くの親戚もハラハラしているので申し訳ない気持ちではいるが生活もあるので行動に移すことができなかった。
どうしてよいか決断がつかなかった。
母親は、長女に看てもらいたいとも言わないし、自分の事がわかってないので
「大丈夫よ」
と言っていた。
しかし、日常生活が徐々に出来なくなっているのは事実だった。
母親の家は周りが従妹や縁続きの人ばかりなので、容赦なく母親をどうするのかといってくる。
親戚も責任を負わされることを懸念すのかもしれないが長いこと親戚に囲まれて生活していた母親が認知症になると知るや、厳しい言い方をされるのには姉妹も戸惑いを隠しきれなかった。
長女は親の介護をどうするかで仕事をやめて田舎で生活をするかとか悩んだ挙句、自分では解決できないので、カウンセリングを受ける事となった。
長女の話を聞きながら親戚も国も家族が看るのが一番いいと言うが娘さんたちにも家族が増えているので、簡単に実家に戻る事は出来ないことは容易に理解できた。
自分たちの生活を大切にしながら、母親と自分たちの家族との折り合いを考えていきましょうと話す。
私自身が長年ケアマネージャーとしてこの業界に携わり多少なりとも経験はあったことからその時の経験を話した。
介護保険サービスを上手に利用しながら、家族だけが全部引き受けるのではなく家でも介護していける方法を探しましょう、と伝える。
長女は仕事をやめなくても母の介護をしていけるのではないかと言われて涙を流していた。
いままでそんなことをアドバイスしてくれた人は誰もいなかった。
母親のことを思えば、地元の知り合いの中で暮らすことが一番良いと思う。
しかし、それは夫も仕事をやめて家族全員が田舎に帰る事になるため家族の賛成が必要。
生活基盤が確立されている以上、それはどう考えても無理。
遠距離介護もあるが仕事も休めないので週1回も帰れないし認知症は回復する病ではなく徐々に進んでいくので、困難であると思う。
色々考えた結果、仕事をやめずに介護することは、かわいそうだが母親を娘たちの家に転居することだった。
姉妹二人で近くに住まいを見つければ、介護を助け合いながら一緒にやれるので妹家族とも話し合いをして至急に家探しをはじめ、適当なところが見つかった。
姉妹の介護の配分を週3日と4日に分けてやることでまとめ、母親の主介護者は長女となった。
運よく隣り合わせの手頃の家も見つかり、交代制で介護を開始した。
母親がお金をたくさん持っているわけでもないので、姉が妹の家に少し介護費用を渡すことにした。
昼間は、ディサービスを利用しているので、夜の夕食作りからが介護になるが母親を3日間姉の家に移動し4日間は妹の家に移動するやり方なので、だんだん母親の混乱が多くなってきた。
母親も疲れるのでしょう。朝の忙しい時にディサービスを休むと言いだすようになってしまった。
何とか行ってもらうようにあの手この手で送りだすことが多くなっていた。
毎日母親の顔が見られるので精神的には安心できたが、仕事量は増えたので寝る時間は深夜になる事も多々あった。
長女も60代で以前、重い病気もしているので再発の不安はあるが夫も手伝ってくれるので、何とかやれていた。
妹と二人だから気兼ねなくできるものかと思っていたが、お互いに家族もあるとそう簡単なものではない事がわかってきた。
母親にきつく怒ったり、介護の心構えも異なるので、温度差のある中で母親は感情もあらわにしないで過ごしていた。
長女は、子供がいないので、母親にやさしくしてあげたいのであの手この手を尽くしている。
一生懸命すぎて体を酷使しすぎてやさしい気持ちになれなかったりで、心が落ち込んでしまう事もある。
そんなときにカウンセリングの予約が入っていた。
疲れた顔をしてとまり木に来ては、あれこれたくさん話していく。
お母さんのわがままな行動や妹さんの言い方が気になったりしている。
以前は家族だったが結婚して子供が出来たりすると家庭環境も違ってくるので考え方も変わってくる。
長女は主介護者として責任感を持って介護関係の保護者としての役割を務めていた。
妹はあくまで姉のサポート役としているので、すぐ母親の問題が起きると連絡してくるが内容によっては、自分で判断してやって欲しいと思う事もあった。
ひとつひとつのことまで夫には話せないので、胸の内がいっぱいになると相談にやってきて涙を流して思いを流して帰っていく。
解決の出来ない事なので心を軽くするすることしかない。
長女は、いつも最後まで母親を自分の手で世話をしたいと話す。
長女は妹と協力してやっていくと言うことはすべて半分ずつ負担し合うのかと思っていたがお互いに生活が別なのだから同じにはならないことも後でわかってきた。
時間が経過すると認知症はさらに進行し、母親はもう考えることもできなくなり好物のチョコレートをあげるとにっこりして食べる。
そんな顔を見ると施設入所も考えるがやっぱり大変でも家で介護していこうと思う。
母親の介護は大変なことが多い中で、時々子供のような表情をする時は親と思うより我が子のような気持ちになり可愛く思った。
介護の年数も1年、2年と経つと自分たちの生活にどんとのしかかってくるので、無性に切なくなってくる事もあった。
長生きしてもらう事を子供として望みながらも、
「いつまでこの生活が続くのかな」
と思っている自分に恐ろしくなると話していた。
介護生活はきれいごとでは終わらない。
長女さんには、体が辛くなったら我慢しないで、介護保険サービスのショートステイ等を利用して、自分を元気にしてやさしく・明るい気持ちになれるようにしてくださいと話す。
介護保険サービスを利用することは子供として罪悪でも何でもないのですよ。
他人はあれこれ言う人もいるでしょうが聞かないで自分の気持ちを聞いてください。
他人事と実際にかかるのでは雲泥の差があり経験しなければわからないことの方が多いのです。
あれこれ言う人はその時になって自分の発言を後悔するでしょう。
その後も姉妹の間を保ちながら母親の介護を継続していた。
介護に慣れることで心に余裕も出て来たが介護量は増えていった。
介護を終えた長女がカウンセリングで語った本音
久しぶりに長女からカウンセリングの依頼が入った。
「3年間、介護したお母さんが亡くなりました」
介護をしながら気持ちが遣り切れなくなった時にカウンセラーに相談できて自分を責めることなく介護が出来た事がうれしかったと話していた。
ここでカウンセリングは終了になった。
生きる上でどうにもならない事が多々ありますが話を聞いてもらう事で不思議に力が湧いてきたと言う人もたくさんいます。
これからお母さんの介護生活の中で得た諸々が活きてくるでしょう。
そして お母さんを最後まで見られたことは大きな力になるでしょう。
妹さんとの関係も泣き笑いがあった分しっかりした絆が出来たことでしょう。
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