身体麻痺により電話カウンセリングを依頼
彼女は以前、脳内出血で入院しその後リハビリ病院に転院し3か月間リハビリをしていた。
左上下肢麻痺で歩行も自分の思いのように進まない。
何をするのにも看護師さんのサポートが必要だった。
そのストレスからカウンセリング依頼が入り定期的に電話カウンセリングを行っていた。
今回、しばらく途絶えていたが改めて電話カウンセリングに依頼が入った。
おそらくはリハビリが一進一退で明確な結果が出ないことがストレスとなりカウンセリングを求めてきたのだと思われる。
彼女は大変にやる気のある人で病院のリハビリメニューの他に自ら朝練習を申し出たり、トイレは車椅子なしで杖歩行で歩きたいといい看護師の見守りのもとで行っている。
そんな彼女も 時々挫折しそうになることがある。
補装具を着けて歩けるようにはなったが夜のトイレに行くのが大変で何度も軽い転倒をしたり、眠気が覚めないままだと麻痺の足がぐにゃぐにゃで立つことが困難な時がある。
病院では、看護師の見守りがあるが家に帰ったら自分一人でしなければならない。
自分だけでは出来ないかもしれないと不安がよぎる。
病院ではトイレを失敗しても看護師さんが来てきれいにしてくれる。
家では夫が看護師さんの代わりになってはくれると言ってはくれるが、そのようなことはさせたくないと思っている。
夜だけポータブルトイレを利用してもいいのだが自分では掃除が出来ない。
ただ、夫にそのようなことをしてもらいたくないのでいろいろ考えると不安が襲ってくると言う。
自分の気持ちが下がりだすと電話カウンセリングを依頼してくる。
今の自分にできないことを話し心が安定していないのだが、カウンセリングの終話時間が近くなるころには元気が出てきて前向きな考えに内容が変わってくる。
私は彼女の話に寄り添って聞いているだけで特に何も言わないが、リハビリを一生懸命頑張っていることには必ず触れるようにしている。
家には、一本杖で帰る。彼女の目標は揺らがない。
強い信念が出てくると電話を切る。
これまで若い時からリーダー役で部下を引っ張ってきた人なのに麻痺のある体になると心が小さくなり、自分では不安を抱えきれなくなる。
子供のように泣き出したりする。
リハビリが前向きに出来る日もあれば看護師のひと言で意欲が低下してベッドにもぐりこんでしまう日もある。
そんな時は昼間でもベッドでひと寝入りすることで元気になると言う。
強い人だ。
彼女のリハビリは少し特殊だがとても興味深いものだ。
彼女は自分の体に話しかけながらリハビリしていた。
リハビリで歩いていている時は、足に「上手だね」とか「その調子」とか声掛けをする。
すると、足と自分が一体になれて足が軽くなるのだそうだ。
看護師が無理なことを要求してくると、その一言でやる気がドーンとなくなる。
歩行器は両手でハンドルを握らなくては押せないのだが、麻痺側の左手で握ってもすぐ外れてしまう。
彼女は家に帰った時、歩行器の方が移動しやすいので練習したいと申し出るのだが、看護師に「まだ早い。」と言われてしまった。
その言葉によって彼女は自身のやる気を阻まれたと感じてしまった。
麻痺側のリハビリは自身の思うようににはすすまないが少しずつ練習すれば必ず出来るようになることを今までの経験から体験してきた。
彼女は動かない足に話しかけると言うことを聞いてくれる、自身の足に尊敬の念をもっている。
自分の持ち物だからと命令で動かそうとしても足は動かないのだ、という。
本人以外にはわからないことなのだが、ある種の暗示効果があるのだろう。
人間には自分だけのスイッチの入れ方というものがある。スポーツ選手はそれをルーティンと呼びストレスが大きい人ほどルーティンは特殊になる。
看護師がルーティンを科学的ではないと思ったのか、それとも経験が浅い看護師で対応出来なかったのかはわからない。
しかし彼女がとった行動を変わった人のように言ってしまったことは軽率な発言であったし、その一言が彼女に大きなにショックを与えてしまった。
それでも彼女はリハビリを頑張っている。
頑張って歩いた時は麻痺側の足がパンパンになって眠れなくなる。
そんな時のトイレ動作はとってもつらいと話す。
一日たりとも晴れやかな日がないが何とか杖歩行が出来るようになった時、退院の話が出てきた。
うれしい反面、日常生活の大きな不安も出てきた。
聡明な彼女はリーダー気質もあるためか常に状況の一歩先を見据えている。
病院生活が長くなると退院後の日常生活が頭に浮かんでこないという。
退院を夢見てリハビリを頑張ってきた。
が、いざ退院の話が出ると気弱になっている自分がいると言う。
彼女はなるべく夫に負担をかけたくないと強く思っているので、今の状態で自宅生活が本当に出来るのだろうかと足踏み状態になっていた。
50年連れ添ってもわからなかった夫婦間のミゾ
ある日、介護保険サービス利用について夫に相談すると、「お前は障碍者だから俺が決める」と言われた。
障碍者であるのに意見を聞こうとしない態度に何とも言われぬ寂しさがあると話す。
入院してから何度も夫の言動に泣かされてきたが自分なりに気持ちを切り替えなんとか平常に戻してきた。
夫にあんな側面があるとは思わなかったという。
夫婦と言えど何か問題が起きないと真剣に向き合わないものだ。
たとえ何十年も一緒に過ごしたとしても心が分かり合えることは難しい。
今までのような平行線の生活は出来ないので自分から夫のやり方に従うしかないのだ、と力の抜けた言い方をしていた。
彼女が玄関の上がり框に階段付き手すりをレンタルしたいと相談すると夫は、「そんなのみっともない。」という。
彼女は夫の無神経な発言が自分を全否定されてるようで哀しいという。
そんな時は、電話カウンセリングでじっくり話し合った。
「結婚してから50年経っているのにお互いに何も分かり合っていなかった。」と繰り返す。
彼女はこれまで夫に服従的に過ごしてきた。その家庭は平和もどきだったのかもしれないと感じているようだった。
夫の許せない言動をたくさん話していたがある時、別の視点で考えたことを話し始めた。
「夫の育った境遇を考えてみた。小さい頃から苦労していたので、性格がきつくなったのかもしれない。」
とつぶやきこう続けた。
「夫はわたしが障碍者になって半年以上も経つのにまだ心の中ではそれを認めたくないのかな。」
理由はわからないが夫は介護保険サービスを利用することに消極的な意見を出すので、退院後の転倒が怖いという。
彼女の話によると夫は自分の家に他人が我がもの顔で入って来ることに抵抗がある様だ。
介護保険サービスを上手く利用していくことでお互いに無理をしないで安心して過ごせると思うが退院を目の前にしても夫の理解が得られないものが多々ある。
今回の件で夫婦の価値観の相違について考えさせられた。
どこまで連れ添っても分かり合えないものはある。
彼女にはイライラしないで辛抱強く夫にわかってもらうため、話し合いは続けましょうと元気付けた。
夫婦の在り方はそれぞれ異なるが障害を持った妻を夫がサポートしていくには、これから長い生活訓練と心の訓練が必要でしょう。
麻痺した上下肢をリハビリしたように夫との生活も地道に歩み寄りのためのリハビリをして行きましょう。
いつの日か二人のわだかまりが溶けてくることを信じて退院を期に電話カウンセリングをいったん満了とした。
※電話カウンセリングはこちからお電話するので通話料金はかかりません。
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