脳内出血で左手、左足が動かなくなってしまった

遠方の知人から突然脳内出血で倒れて緊急入院したと電話があった。
言葉もとぎれとぎれで内容がはっきりしない。
彼女の夫に電話して真相がわかった。
彼女も今回で2回目なので内心もうダメと思ったと言う。
彼女は70代で仕事もバリバリやっていた。

入院直後、電話カウンセリングを開始した。
気が付けば左手と左足が自分の意志では動かなくなっている。

オムツになり今までの生活と全く違った状態になり夢であればいいと何度も思ったと言う。

身体も動かせないので、看護師を呼んでやってもらう苦しさは辛い。
毎日言葉がおぼつかない中、けなげに電話をかけてくる。
彼女は、

「こんな体になり夫に申し訳ない」

とお詫びしたと言う。
夫は、

「お互い様だよ」

とぽつりと言ったと話す。

今までの彼女では決して言えない言葉だった。

夫婦の絆

こんなことになることなど思いもせず、いつも自分の思いをつらぬいて生きてきた。
しかし、いま不自由になり彼女はすべてに詫びたい気持ちになったとも話す。

すこし休めとの神の声ではないのか?と言うと、

「今まで自分が好きなことを選んで生きてきたが入院して色々な方と話すと自分は知らない事がいっぱいあり手前勝手だったと思う。」

と話す。

気持ちも落ち着いてくると左手と左足が動かない事は、どうゆうことにつながるのかと考えると恐怖を覚えると言う。

電話よりメールの方が隣のベッドの人の迷惑にならないかと思ってが左手が動かないと上手くメールが打てないと言う。

個室の時は電話もできるが相部屋になるとそれもできない。食事は車椅子で食堂まで出かけるのでその時電話をしてくる。

静かに寝ていると嫌なことばかり考えてしまうので、自分の状態をわかってもらえる人と話したいと言う。

毎日の電話カウンセリングで彼女の頑張りが手に取るようにわかってくる。

言葉も聞き取れるようになり、左の指も少し動くようになってきたと話す。
彼女にとっては誰かに話すことで明日の元気が出ると言う。

「あなたの頑張りを応援しているよ。」と伝えるとうれしいと言う。

「じゃまた明日ね」と電話を切る。

1か月過ぎてリハビリ病院に転院になった。

このころになると新型コロナウイルスの影響で病院はピリピリして家族の面会もシャットアウトになってしまった。

彼女にとって唯一、夫の面会だけが喜びだったのにそれもかなわなくなってしまう。

彼女は、初めて寂しいよ、とこぼした。

自分の気持ちをすなおに言えるようになった。

それまで自分の弱みを他人に言うことなどなかったが今は、心から嬉しい事や寂しい事を言葉に出すことができるようになってきた。

これまでがむしゃらに走り続けて来た。そしてどこかでそのことを自慢に思っていた。
弱みを言ったり、自分の心の声など聴こうともしないでお腹の底に押し込めてきた。
その時は辛くもなく、ほんのすこしの空き時間もできないほどに無駄なく計画的にこなしていた。

リハビリ病院に転院してから毎日、午前・午後4~5時間リハビリをこなしていた。

そんなある日、電話カウンセリングで、

「初めて自分の体の大変な事態に気付いた!」

と話した。
今までは介助者がいて動けなくてもサポートしてもらうので、あまり不自由を感じてなかった。

トイレの訓練で膝を曲げて便座に座る事が出来ない事にショックを受けて電話の向こうで泣いていた。
身体がこんなに自由にならない事で今後の自分を考えてしまったのだろう。

そこで辛い思いを静かに共感した。これから出来るところから積み上げていこう、やる気さえあれば大丈夫と静かに励ます。
それまで彼女は自宅がバリヤーフリーだからすぐ帰れると思っていたらしい。

彼女は心身が強いのですぐ考え直し補装具を付けて平行棒を歩く訓練を受けると言うが左手が平行棒を握れないので一人ではできない。
一人でできるようになるまで時間はかかると思うけれど、必ず家に帰れる状態にしてくれるのだから頑張ろうと話す。

いつも彼女は、

「うん!頑張る!」と言う。

例えぶつかり合っても夫が妻を心から支えていれば大丈夫

彼女との毎日の電話カウンセリングで彼女の心が前向きになってくる姿が見えてくる。
夫とは毎日ガラス越しの窓から対話をしていた。
夫は脚をあげてみろ とか 手を挙げて とか いろいろ言うらしいが今はあげられない。
傍には来てもらえないがお互いに励みになっていると言う。

これまで夫の事はあまりよく言ってなかったが今は大きな支えになっている。
夫に感謝だよとことあるごとに発するようになった。

ある日の電話では、就寝が9時なので4時には目が覚めてオムツを取り換えてもらい自主トレーニングをする。

そしてブログを毎日書いていると言う。

前向きになっている事に驚いた。同じような仲間にも励みになるよ。人間どんな状態になっても人と人とのつながりがあれば、生きる力が出てくると思うよ。と話す。

今まで前向きな電話カウンセリングになっていたがある夜は少し後退ぎみな話になる。
夫が妻の介護認定を受ける手続を拒否している。

リハビリ病院の患者とその家族と病院関係者が今後の事をカンファレンスする1回目であった。
すでに夫には連絡済みだったが当日、連絡なしで欠席した。

彼女は頭に来て夫に電話したが何か用事が出来たと話した。私の事が一番大事ではないのかと怒りが込み上げてきた。

大人なんだから連絡なしのドタキャンは困る、彼女は、周りの方に謝りしゅんとしてしまい夫との信頼関係が切れそうになった。

彼女は、

「私を施設に入れる気なんだ。」といきり立っていたがゆっくり夫の気持ちになって話してみようとアドバイスした。

妻が脳内出血で倒れ入院になり左手と足が麻痺になった姿を見て夫は大ショックを受けただろう。

家で一人で緊張が取れない状態で心に余裕がなくなりカンファレンスも拒否したのかもしれない。
夫の心の中には、妻の麻痺した状態を認めたくない気持ちがあるのかもしれない。
その後も病院には決まった時間に面会に来ている。

新型コロナの流行で、じっくり会って話せない事もあり、夫の心は今の妻の状態を受け入れ出来ないのかもしれない。

最近になり彼女はそうかもしれない。と夫を許し始めた。

突然、妻が倒れたことのショックで緊張と不安でパニック状態になっているのかなと話すまで冷静に分析できるまでになっていた。

「50年も一緒にいた。頑固なところもあり多々苦労したがやさしい所がある人なんだ。」

話しているうちに彼女は夫の良い所を思い出してきた。

彼女は脳内出血で倒れたことで自分だけがショックを受けたと思っていたが実際には夫も大きなショックを受けて心に傷を持っているのだと理解した。
介護保険の手続を拒否しているのは、現状を認めたくない気持ちもあるのかもしれない。

彼女が夫の気持ちに寄り添えるようになったのは、聞いてもらえる人がいて問題をその場で話し合えたことが大きい。同時に相手の気持ちを分かり合える事が出来たことも挙げられる。

夫も本人と同じくらい不安を抱いていることを彼女が理解したことで夫婦間に大きな絆が生まれたことが良い方向に作用している。

電話カウンセリングは毎日ではなくなったが現在も続いている。

退院後の生活も今までと異なる状況でお互いに助け合う生活になる。

いままでと変わってしまった生活に慣れるためには何回もすれ違いが起きるが二人の愛の絆があれば、きっとうまくいくだろう。

彼女は今の自分の状態を他人に話すことで自身の心の成長を体験した。
クライアントの心理的な状況変遷がここまではっきりとわかるケースも珍しい。

そして、電話カウンセリングの役割の大きさを痛感した。

これからしばらくは夫のサポートなしでは生活できなくなるが、夫も妻も新しい生活の始まりと気持ちを切り替えていく事を願っている。

妻は夫の気持ちに寄り添う事が出来たが夫は娘や妻の話を聞こうとしない。

しかしそんなある日、夫がタブレットを抱えてきた。と言う
何なのかと思ったら家の近くの桜の花を映して病院の面会に来た。
彼女の心は、パット明るくなった。

こんなことする人とは思わなかった。今までの嫌な思いがいっぺんに吹き飛んでしまった。
彼女は、簡単なことで心は一喜一憂するものだねと言う。
簡単なことではなく真の心だから心を打ったのだと思うよと話した。

きっと分かり合う時は間近に来ていると思う。生きているすばらしさを二人が実感する日まで行く末を見守っていきたいと思っているがそれは遠い日ではないだろう。

妻と夫が少しずつ歩み寄ってきているのが電話カウンセリングを通してにじみ出ているからだ。

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